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第8話 前哨戦 昭和52年10月16日「京都大賞典」(京都芝2400)サラブレッドが最も充実する4歳秋、 3歳時に460キロ程の体重だったテンポイントは、体に厚みが加わり500キロを越して見るからにたくましく成長していた。それでいて、馬体の美しさはみじんも失われていなかった。  サラブレッドにとって、5歳(*現在の馬齢表記で4歳)の秋は最も充実する時期といわれている。テンポイントにとっても、まさにそんな時が到来しようとしていた。  宝塚記念のあと4か月の休養を経て出走した京都大賞典では、63キロという極量を背負わされながらも、スタートから楽に逃げ、2着サイコームサシ以下に8馬身差をつけてブッチ切った。つづく平場オープンでも、かつてカブラヤオーと好勝負したロングホーク相手に馬なりの大楽勝劇を演じている。  秋一連の圧勝劇からすれば、レースぶりに凄(すご)みが加わったというしかない。勲章を得た春の天皇賞でさえも、直線でよれるシーンを見せていたものだが、そのような不安定さは毛ほどもなくなっていた。もし、テンポイントが5歳(*現在の馬齢表記で4歳)秋の雄姿を見せることなく引退していたなら、現在のような高い評価を得ることは決してなかったであろう。  そのような競馬ができるようになったことには肉体的な裏付けもあった。  4歳(*現在の馬齢表記で3歳)時のテンポイントは460キロ程度の馬体重で、ややもすれば女性的な印象すら与える馬だった。ところが、5歳(*現在の馬齢表記で4歳)秋になって体に厚みが加わり、体重も500キロを越して見るからに逞(たくま)しく成長していたのである。  いずれにせよ、“貴公子”と呼ばれ、何となくひ弱で陰鬱(いんうつ)なイメージは、5歳(*現在の馬齢表記で4歳)の秋にはあとかたもなく払拭(ふっしょく)されていたといわなければならない。それでいながら、馬体の美しさは微塵(みじん)も失われていなかった。  一方、トウショウボーイは、宝塚記念の後、高松宮杯(現、高松宮記念)に勝って休養し、秋は中山競馬場での平場オープン戦から復帰した。ただ、相手の楽なレースだったとはいえ、内容は圧巻だった。1600メートルを1分33秒6という当時のスーパーレコードでブッチ切ったのである。トウショウボーイのスピードにまったく翳(かげ)りはなかった。  ちなみに、トウショウボーイを管理する保田隆芳調教師は、このレースに見習いジョッキーの黛を乗せてきた。この程度のレースなら、どう乗っても勝てるという自信の現れであろう。実際、この乗り替わりは、勝ちあぐむ黛に勝ち星をプレゼントすることが目的のレースだったといわれている。  しかし、次走の天皇賞では、まさかの7着に敗れてしまった。もう1頭のライバル・グリーングラスと激しくやりあったため、両者共倒れになってしまったのである。ただ、この敗戦はある程度納得できる部分が多い。マイルをレコードで走破できるスピードで3200メートルを飛ばし、しかも天性のステイヤー、グリーングラスとやりあったのだから、いかにスーパーホースといえども無傷ですむわけがない。また、血統的な背景からも、3200メートルはいささか距離が長すぎたきらいがある。そういえば、はじめて連対をはずしたレースが、3000メートルの菊花賞であった。  このようにして、テンポイントとトウショウボーイは、運命の有馬記念であいまみえることになる

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インパクト3冠へ最高の追い切り/菊花賞 2005年10月20日(木) 9時0分 日刊スポーツ 木くずを蹴散らしながら、武豊騎手を背に3冠へ向けての最終追い切りを行ったディープインパクト(撮影・山岸満)  無敗3冠がくっきり見えた。菊花賞(G1、芝3000メートル、23日=京都)の最終追い切りが19日行われた。栗東トレセンでは6戦6勝のディープインパクト(牡3、栗東・池江泰郎)が、武豊騎手(36=フリー)を背に無駄のない走りで併走馬に先着。大一番に向けて完全に仕上がった。84年のシンボリルドルフ以来、日本競馬史上2頭目の無敗の3冠馬へ態勢は整った。  武豊が押さえていた手綱を直線で解き放つと、インパクトは耳を絞って後ろに倒した。一瞬にして戦闘モードに切り替わった。前を行くフェイトトリックス(古馬500万)に外から並びかけると、残り200メートルで半馬身ほど前に出た。だが、一気に突き放さない。爆発力はレース本番までため込んでおけばいい。懸命に食い下がる併走馬に対し、余裕たっぷりに半馬身のリードを保ったまま、ゴールへ飛び込んだ。  Dウッドコースで6ハロン80秒8、4ハロン51秒9、ラスト11秒8の好時計をあっさりと出した。15秒2、13秒7、13秒0と1ハロンごとに加速する理想的なラップを刻んだ。評価は文句なくA。この日追い切った12頭の中で最高の評価だ。武が出したゴーサインに対し瞬時に反応したことが、前走からの上積みを物語る。管理する池江泰郎師(64)も「走りが軽くなった」と振り返った。  併走パートナーを大きく引き離したわけではない。神戸新聞杯の前に出した、ラスト1ハロン10秒8のように時計面での派手さもない。だが、これでいい。すでに仕上がっており、もう何も必要としない。「速すぎず遅すぎず、予定通りの追い切りができた。いい形で菊花賞へ行ける」。武の表情に自信があふれていた。  インパクトはゴール板を過ぎてすぐ、耳を立てスイッチをオフに切り替えた。わずか200メートルだけ本気で走り、気分よく引き揚げた。皐月賞、ダービーを含めここまで6戦6勝。王者としての風格がすでに漂っている。調教コースの地下を通る馬道で、普段の調教を担当するスタッフが出迎えた。武は「乗りやすかった。最高やね」と伝えた。危険防止のため厩舎の周辺は撮影禁止になっている。そのため、数十人のカメラマンを前にして2周ほどその場で周回。報道陣からの要望に応える形で、撮影会を行うサービスぶりだった。  年間最多勝、史上最速2000勝、JRA騎手初の海外通算100勝と、数々の金字塔を打ち立ててきた武にとって、初めて同じ馬で3冠を達成する最大のチャンスを迎えた。「ここまで来て負けるわけにはいかない。力を出し切って結果を出すだけ。プレッシャーはこの馬に乗り続ける限り続くものなので」。口調には決意がにじみ、迫り来る重圧の中で心地よささえ感じている。  追い切りが終わった19日の昼すぎ、武はすぐに自身のホームページ上で「できるだけ多くの人に京都競馬場に来てほしい。『ナマでディープインパクトを見た』と自慢できるはずですから」と記した。歴史的瞬間を最も待ち焦がれているのは、武豊本人に違いない。3日後、その時は確実にやって来る。【高橋悟史】 [ 10月20日 9時0分 更新 ]

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